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第93話 スイートルームの夜景①

Auteur: 花柳響
last update Dernière mise à jour: 2026-01-24 06:00:30

 地下駐車場の淀んだ空気の中、滑り込んだ黒塗りの車が音もなく停車した。

 外資系の高級ホテル。その地下から直通するエレベーターに乗り込むと、征也は無言のままカードキーをかざし、最上階のボタンを押した。

 扉が閉まり、密室が作られる。ふわりと内臓が浮き上がるような感覚と共に、耳が詰まるほどの沈黙が降りてきた。

 隣に立つ征也が、私の肩にかけていた彼のジャケットの襟を強引にかき合わせ、ぐい、と自分の方へ引き寄せる。その力は乱暴なようでいて、どこか縋るようにも感じられた。少しでも手を離せば、私が煙のように消えてしまうと本気で恐れているような、そんな切羽詰まった熱が二の腕を通して伝わってくる。

 恐る恐る、彼の横顔を盗み見る。

 照明に照らされたその顔は、先ほどのパーティー会場で周囲を威圧していた冷たい仮面を被ったままだ。けれど、私の肌に食い込む指先だけが微かに震え、彼の中で暴れ回っている、言葉にできない激情を雄弁に物語っていた。

「……部屋を取った」

 目的の階に到着した電子音と同時に、彼が短く言った。それ以上の説明はなかった。

 足が沈み込むほど分厚い絨毯が敷かれた廊下を、ほとんど引きずられるようにして進む。

 足元がおぼつかない私を、彼は腰を抱いて支え、迷いのない足取りで廊下の突き当たりにある重厚な扉を開けた。

 一歩足を踏み入れた瞬間、視界いっぱいに広がったのは、暴力的なまでの光の洪水だった。

 床から天井まで切り取られた巨大なガラス窓の向こうで、東京の夜景が散らばった宝石のように瞬いている。

 東京タワーの赤い灯火、首都高を流れるテールランプの帯、見上げるほど高いビル群の無数の窓明かり。

 それは息を呑むほど美しく、そして残酷なほどに人工的な景色だった。

 かつて、父と眺めた家の灯りとは違う。ここにあるのは、人の温もりなど及ばない、成功者だけが見下ろすことを許された冷たく圧倒的な「力」の輝きだ。

「……きれい……」

 思わず唇からこぼれ落ちた呟きは、すぐに遮られた。

 背後から強い力で抱きすくめられ、私の視界
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